桜が咲くころには

桜のつぼみが出てくる、この季節には
毎年ある人を思い出す


O次郎とは関係のない、わたくしごとの
切ない話しなので、興味の無い方はスルーでお願いしますね




私はこの仕事をする前は、介護のお仕事をしていました。
訪問介護といって、一人暮らしや身体が不自由な方のお宅に
訪問し介助する、ヘルパーと言われるお仕事です

私はお年寄りや子供が大好きなので
とっても楽しく、天職だと思って仕事をしていました

もちろん、中には、とてもイヤなややこしい利用者さんも
いて、悔しくて涙した事も多々あるけども

そんな事よりも、自分にとって得るものが沢山ありましたし
長い人生を歩んできた大先輩です
宝物のような教えを説く利用者さんもいらっしゃいました。
その言葉のひとつひとつにとても重みがありました

自分の人生の中で
とても大切なものが芽生えたきっかけでもありました




私がヘルパーになって、まだ1年に満たない頃
ある方の担当になりました

市営住宅に一人暮らし
82歳のMさんは、おかっぱ白髪の笑顔の可愛いおばあちゃんでした
Mさんには、近くに住む息子がいました。
そして年金は息子にすべて任せている状態でした

息子は毎日、近所のスーパーで320円のお弁当を買って
Mさんに届けました。
彼女は、1日の食事をこの320円のお弁当のみで命を繋いでいました

毎日、同じおかず、コロッケにきんぴらごぼう
高野豆腐に人参しいたけ、白ごはんに梅干しひとつぶ
これを毎日です この小さなお弁当を朝・昼・晩に分けて食すのです
時々、牛乳と小芋の煮っ転がしが付きました。
それだけです

そんな彼女ですから、どこか寂しげで影がある方!
これが私の最初の印象でした


ある日、訪問した私に彼女はこう言ってきました
「○○さん申し訳ないけど、これでブロッコリーと
 卵を買ってきてくれないかな?自分で作った卵焼きが食べたいの」

見ると、10円玉と5円玉、1円玉ばかりで全部で200円ありました
きっと小銭を必死に集めはったんでしょう

私は、上司に介助の変更を確認し
その小銭と自分の財布を握りしめて
近くのスーパーへ買い物へ行きました。

200円でブロッコリーと卵が買えるわけもなく・・・

私は「ごめんなさい!帰りにレシート無くしてしまって、
ブロッコリー98円と卵100円で全部で198円でした
2円おつりね!」とウソをついてしまいました。

お顔を見るととっても嬉しそうで、
調理しようとされたのだけど、困った顔をされていたので
私が作りますよ~と
ブロッコリーを湯がき
塩のみ(調味料がない)の卵焼きを作りました

彼女は、卵焼きをひとくち食べて
「あ~こんなに美味しい卵焼きは、何年振りかしらと涙されました」
私は布団を取り込んできますね!
と言って、流れる涙をぬぐいました



私たちは普段、当たり前のようにあたたかい食事を摂っています
でもそれは、とてもありがたいことなんですよね

塩のみの卵焼き・湯がきたてのブロッコリー
何でもないものだけど、彼女にとって
あたたかい出来立ての食事は
どんなにごちそうだったことかと思うと
今でも泣けてきます


そこから、Mさんは私の事をとっても可愛がって下さいました
同僚からは「何度言っても外へのお散歩は無理よ、頑固だから!」と
聞かされていましたが、

お花がとってもお好きな方だったので
近くの○○にきれいな水仙が咲いていましたよ~
天気も良いし、一緒に見に行きませんかー?とお誘いすると
「そうね、行ってみようかね」との返事に私がビックリしました!

私は彼女と腕を組んで(歩行が不安定)一緒にお散歩をしました。

それからというもの、毎回お散歩へ行きたいとのことで
援助が外出に変更され、彼女は見違えるように明るい笑顔を
見せてくれるようになりました。

春一番が吹いた頃、
いつものように腕を組んでお散歩をしているときに
ふと桜の木がつぼみを付けていることに目が行きました

「Mさん、これは桜の木ですね!全部ですよーすごいですね!
 きっときれいな桜並木になるんでしょうね?」と聞くと

「見たことがないの」とションボリの返答でした

これまで、何年この地で暮らしてきたのだろう・・・
住宅を出てすぐの場所なのに、見たことないなんて・・・

「春になったら、必ずいっしょに見に行きましょうね!」
そう言うと彼女はとても嬉しそうに
「うん」とうなずきました。

「約束したけぇね!」
そういうと、彼女は「あ!広島弁!」と微笑みました
戦争中に、岡山に疎開されてた時、広島出身の親友ができたそうで
広島弁を聞くと大好きだった親友を思い出し
彼女は私の広島弁をとても喜んでくれたのでした。


そんなある日、入浴介助で訪問したら
とてもしんどそうにされていたMさん

熱を計ると、微熱があり、しんどそうなので
上司に連絡を取り、血圧も安定していることから
ポカリスエットを飲ませ、後で看護師に電話してもらうので
このまま休んでもらうとの指示で
彼女をベットで寝かせ

「今日は、良い子しとかんといけんよ~」
という私に
「あっ、広島弁!」
と笑顔で「うん」と
子供のように微笑んで返事をされたのでした。

少し寒気がするとのことで、もう1枚毛布を出して
彼女が寝付くまで、まるで子供を寝かしつけるように背中をトントンしました

時間が来て、穏やかな寝息をたてる彼女を後にして
カギをかけて次の訪問先へ移動しました


次の日の朝、彼女が布団に入ったまま亡くなっていた
との連絡が入りました。

私は最後に接した人間として警察に状況説明しました



彼女を寝かしつけたときに、自分でも何で?
いくらなんでも子ども扱いは失礼なんじゃない!と思うくらい
彼女を子供のように寝かしつけたのは
彼女がそう望んでいたからなのかな。。。



彼女が亡くなって、1か月後、市営住宅の周りは

見事な桜で満開になりました。

私は桜並木に立ち寄り、自転車を置いて

彼女と一緒に腕を組んでお散歩していた道を

満開になった美しい桜を眺めながら

ひとりでゆっくり歩きました

約束を果たすために


sakura23.jpg



6年経った今でも桜の季節になると
少女のような優しい笑顔の彼女をふと思い出す
切ない思い出なのでした




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